理事会による事故調査委員会
  社会福祉法人わかば会  2021年5月31日(月)

一.事故の経過

事故当日3月9日18時30分からの保護者説明会への配布資料(45家庭約50名出席)

2021年3月9日(火)10時42分頃、旭川市川端町旭西橋上流の石狩川右岸で、園児二名の転落事故が発生しました。すぐ一人の保育士が119番に電話しました。二名とも約12分後に救助され、二台の救急車でそれぞれ旭川医大病院に搬送されました。幸い二名とも命に別状はありませんでした。
 保育園として、今回のような重大事故を起こしたことを、保護者の皆様に心からお詫び申し上げます。再発を防止するため、しっかり検証し、対策をたてていきたいと考えています。まず、冬の堤防での遊びは今後行わないようにします。

事故に至る事実経過

(1) 当日は天候も晴で気温1度と外遊びに適しており、かねてから計画していた石狩川堤防の斜面で米袋による尻すべりを行なうこととした。最年長児クラス(6歳で4月に小学校へ進学)の子ども24名のうち、当日欠席した1名を除く23名で、保育士2名が引率して現地へ向かった。楽しく手をつないで滑り降りたりしていたが、当日はプラスの気温だったため、滑りが悪くつないだ手が離れたり、途中で止まったりしていた。
(2) そこで、保育士が荷物運搬用のソリ(1台だけ飲料水などを運ぶため持参していた)で滑ると楽しいのではないかと考え、前に1名・後ろに2名の3名で、ソリ滑りをしたところ、右側へL字型に曲がって止まった。子どもたちはそれを面白がり乗りたいとジャンケンをした。2回目に乗った3名は、堤防下の歩くスキーコースに止まらず、ゆるゆると川へ向かって行った。前の男の子は、危険を感じ自ら降りたが、後ろの女の子二人は、ゆるゆると川へ転落した。
(3) 一人は約10m下流の川岸の木の枝に、手袋が脱げ素手で捕まり、水も腰くらいであった。もう一人は保育士が川岸を歩くくらいの速さで河をゆるゆると流された。保育士が「手足をばたばたしないで、上をむいて静かに!」と叫ぶと、つなぎの防寒着が、浮き輪代わりとなり上をむいて約70m流された。
駆けつけてくれた中年の男性が河へ入り、抱き上げ、事故から12分後に来た消防隊に救出された。川岸の枝につかまっていた児童も消防隊に助け上げられた。なお川岸と積雪との高さは大人の背丈くらいあり、消防隊がくるまで、待っていて助けられた。
(4) 二人とも一度は河に入ったので、全身に水をあびた。救急車で搬送された二人は、幸いにも命に別状はなく、経過観察のため医大病院に入院している。
(5) 今回は、「歩くスキーコース」でソリが止まると誤認したことが直接の原因だったが、そもそも堤防で尻すべりすること自体に危険があるため、冬の遊びには堤防を使用しないようにする。
*保護者説明会に配布した文書のままです。

二.第1回事故調査委員会議事録
2021年3月15日(月)

1.堤防での尻滑り遊びについて

1.そもそも日常的に冬も堤防のところで、コメ袋で尻滑りしていたことは妥当だったのか?→今後は堤防での尻滑りは中止する。
2.今回はソリでの事故だったが、コメ袋でも気象条件では起きる可能性があるのではないか?→築山などでの尻滑りでも、必ず斜面下に保育士を置く。
3.この場所を利用するのは、遊び場として、冬でも一部除雪された遊歩道があり、車道をあまり通らずに行くことができるからか?→今後は堤防を使用しない。
4.堤防で尻滑りをしたことは、これまで年間に何回程度あったのか?→年長児で各クラス年間1~2回あった→今後は堤防での尻滑りは行わない。
6.米袋による尻滑りが妥当だったとして、3月9日の天候・気温から、出かけるのが妥当だったのか?…天候は快晴でも気温1度では、コメ袋では滑りが悪いのではないか?→天候などを考え中止の判断をするとの条件を、計画段階で明示し、園長の承認を得る。
7.子ども23人に対し、2人の引率で十分だったのか?…2人しか引率できない場合は中止の決断も必要だったのではないか?→20人以上の場合は、3人以上の保育士が引率するのを原則とする。例外的に2人以下になる場合は必ず園長の承認を得る。
8.現場への荷物運搬用に持って行った1台だけのソリの利用の判断は、なぜ起きてしまったのか?→保育士の危機管理能力を研修や諸会議で高める。
9.子どもたちをより楽しませたかったからか?→何事も安全第一で考える。少しでも危険がある場合は、その危険を完全に除去してから実施する。 
10.今月で卒園する子供たちに、楽しんでいる写真を残したかったからか?→何事も安全第一で考える。少しでも危険がある場合は、その危険を完全に除去してから実施する。
11.ソリを使用する判断は、堤防下から河川までの距離と傾斜・ソリの滑りの状況などが十分考慮されたのか?→そもそも川へ向かって尻滑りを行うことを中止する。

2.事故に至るまでの問題点

1.堤防の上に一人、中間にカメラを構えて一人の配置は妥当だったか?…子どもの安全よりも写真を撮ることに集中していたのではないか?→何事も安全第一で考える。少しでも危険がある場合は、その危険を完全に除去してから実施する。

2.1回目で、ソリがL字型を描いて横へ行ったのを見て、2回目もそうなるのではないかと都合のよい方へ思ったのではないか?→安全の基本は楽観論(だろう)で考えるのでなく悲観論(もしかして)で考える。

3.子どもを3人乗せたのは妥当だったのか?…前後2人だけなら、2人とも途中で降りることが出来たのではないか?→万が一のとき、安全かどうかを基本とする。

4.ソリが川へ向かってゆるゆると滑って行ったのを発見したのはいつか。すぐ止めることは、なぜできなかったのか?→子どもたちがどのような行動をしているか常に見逃さず注意して見る。

3.事故後の対応

1. 斜面の中間にいた保育士が、自分たちでは対処できないと思い、110番に電話し、さらに119番にすぐ電話したのは妥当だった。消防署から携帯を切らずに、消防車が着くまで、通話状態しておくように言われたのも妥当だった。上にいた保育士は、すぐ坂を下り、携帯電話の入ったバッグを置いて、川べりへ向かったのは妥当か?→携帯電話は常に携帯して、いつでも連絡が取れるように日常から習慣づける。

2.園児の一人は、落ちた地点から15mほど下流の灌木が生い茂っていたところの枝に掴まったのは偶然か? 手袋は脱げていて素手で掴まっていた。水は腰のあたりまであった。保育士は「しっかり掴まっていなさい」と声をかけながら、川に近寄ってくる21人の他の園児を川から遠ざけるようにしていた。→この場所はたまたま川岸に灌木が生い茂っていて幸運だった。保育士が灌木につかまっていた園児に声をかけ励まし続けたのは正しかった。他の園児は泣いたり、「ガンバレ」と声をかけたりしながら、どうしても川へ近寄ってくるので、川から離れるよう誘導したのは、正しい行動だった。

3.もう一人の園児は、川べりをゆっくりと流された(この部分は川の真ん中は流れが速く川岸は流れが緩やか)が、保育士は「バタバタしたら沈むよ。手足を伸ばして静かに上を向くんだよ」と声をかけた。
   子どもはそのとおりにして、つなぎのスノースーツが浮き輪のようになり、浮いて流された。この声掛けは妥当だったか? どのような声掛けが最良か?
  →保育士は泳ぎができない。この声掛けは適切最良だった。今後も危機に際しての行動を学んでいく。

4.川の端から直角に2mくらいの高さで雪が積もっていたが、保育士が下へ降りる可能性はなかったのか? 降りた場合、保育士が流される二次災害の可能性はどうだったのか? 消防車が来る迄待った判断はどうだったのか?→二次災害の可能性が非常に高い(消防署警防課)。川岸から声をかけ続けたのは正しかった。できれば棒やロープのようなものを見つけてきて、差し伸べられればよりよかった。

5.浮いて流されていた子が、5分ほどで約70m下流地点にきたときに、旭西橋の歩道から見ていた40歳前後の男性が川べりへ下りてきて、2m下を覗いて水のない浅瀬を見つけて跳び降りた。子どもの腕をつかもうとしたが届かず、川に入ると背よりも深かったため立ち泳ぎで近づき、流されていた子の襟元をつかんで引き寄せていただいた。子どもと川岸に立ち、救助が来るのを待っていてくれた。→上着は脱いだが、衣服を着たまま立ち泳ぎで園児に近づいたのは、この男性に特別に訓練された力があったためと考えられる。以下の例のように、川に入っての救助は、一般的には勧められないが、この方の勇気と能力には本当に感謝したい。
結果的に、園児も、保育士も、救助していただいた男性も、誰も命を失なわなかったのは本当によかった。

その後の類似事例(参考)
東京都板橋区の川で大人1名と男児溺れ死亡

2021年4月7日(水) 夕方、東京板橋区蓮根3丁目の新河岸川(しんがしがわ)で、小学2年の男の子(7歳)と、助けようとした成人男性の2人が溺れ、男の子は見つかったが、意識不明の重体でその後死亡。助けに川へ入った40代男性は8km流され北区の荒川で4日後の11日に遺体で発見された。もう一人の男性は直後に差し出された棒につかまり助かる。

斎藤秀俊さん
・・・一般社団法人水難学会会長、国立大学法人長岡技術科学大学大学院教授
「溺れたらあおむけに『背浮き』をして体を動かさずに静かに救助を待つしかない。
救助は必ず陸から、ボール・浮き輪・空のペットボトルなどの浮くものや、長い棒・
長袖の服を脱いで差し伸べるなど掴まれる道具を使用して行う。」これが鉄則との
こと。背浮きは、着衣のまま息を吐かずにあおむけになり、衣服や靴が含んでいる
空気で浮力を得ながら口と鼻を水面に出すようにする。ジタバタしなければ必ず浮
いてくるとのこと。119番後も「浮いて待て」と声をかけ続ける。

*もう一人飛び込んで救助された男性(58歳)は、
  「泳ぎに自信があり、川も一見流れがなく浅いように思えたため、これなら助けられると服を着たまま飛び込んだ。しかし、流れは予想以上に速く、数十秒で着ていたジーンズが水を吸って重くなった。
身動きが取れなくなり、護岸に取り付こうとしたが、下に引っ張られるように体
が沈んでいった。妻が2mほどの木の枝を拾って突き出し、それにしがみついて救
助を待った。数分後若い男性2人に引き上げられた。手足をバタバタさせているう
ちにどんどん沈んだ」と証言。この男性は腕や腹の軽いケガですみ「服を着て川に
入ったらだめだと思った。助けが来てくれなかったら、自分も死んでいた。」と振
り返る。

ネットで投稿した男性
以前、警察と消防の災害講座を受けたことがあったけど、溺れてる人がいて、そ
れを入って助けようとするのは、危険度5段階中5だと言ってたな。
その話しの時に水泳の指導者の人もいたけど、「我々プロでも助けられる可能性
はゼロに近い」と言っていた。過去に助けられた事例は水の流れが良かっただけだ
と言っていた。警察や消防もそういう通報があったら、絶対に入らない。専用の道
具を用意して救助すると言っていた。
学生のとき、体育実技で水泳を履修した。指導教員が「いまここにいる皆さんは、
そこそこ泳げたり腕に覚えがあったりで、この授業を取ったという経緯もあるか
もしれません。まず最初にと始まった話は「絶対に落水者、溺水者を自分で助けに
行こうとしてはならない」という内容。
「泳げるから水に落ちた人を助けられると思うことは字が書ければノーベル文
学賞が取れると思い込むことに等しい」と言われた。

6.12分間で消防車が来てくれた。川の冷たい水のなかで、子どもはどのくらいの時間耐えられるのか?→消防署警防課の話では、大人でも子どもでも30分が限度。それ以上であれば手足が動かなくなる。

7.二人の子どもの心のケアはどうするのか? 救急車で旭川医大病院へ運ばれ、観察入院し翌日午前に退院し、昼に保育園に顔を見せてくれた。枝に掴まっていた一人は翌日から登園、流されたもう一人は10日後から登園した。
  →小学校に引き継ぎ、小学校のカウンセラーに状況を伝えた。個別に保育所に来ていただけることはできなかった。

8.周りで見ていた子供たち(泣いている子も、がんばれと声をかけて子もいた)の心のケアはどうすべきか?→小学校に引き継ぎ、小学校のカウンセラーに状況を伝えた。個別に保育所に来ていただけることはできなかった。

9.保護者への対応はどうすべきか?→保護者への説明会は、経過を記述したA4サイズ1枚の文書を配って、当日おこなった。45家庭50人ほどが参加した。
被害者の保護者の一人からは「ただ謝罪するだけでは済まない」と当然の対応がある。今後どう責任を取っていく必要があるか?→経過については②の文書を参照。

4.園内の事故防止体制の見直し

1.「事故防止委員会」を職員会議とは別に、事故の都度、さらに年4回定期的に開催して対策を打ち出し、職員会議で周知する体制を作っていく。

2.事故が万一起きた際の園内の連絡体制がしっかりしているか? 連絡ルート図があるか?→園内のわかりやすい所に掲示すべき。

3.保育園付近の危険な場所のハザードマップを作成する。→園内の見やすいところに掲示すべき。

4.「どろんこ保育」・「はだし保育」を48年前の設立以来の保育方針としてきたが、今回の事故との関連をどうとらえるか?…できるだけ園外へ出かけることを見直す必要があるのか?→安全に万全を期して、今後も行っていく。(後に行った保護者のアンケートでも園外での活動を望んでいる保護者が多い。)

5.職員の安全教育・研修はどの程度されていたのか?→研修計画を立てて、定期的に実施していく。

6.職員の危機対応に関する教育・研修はどの程度されていたのか?→園外研修は重視して積極的に受けてきた。今後も園内研修を定期的に開いて全職員の意識改革を更にはかる。

7.理事長・理事会、園長・主任保育士の安全に対する意識はどうだったのか?→定期的に事故報告やヒヤリハット報告を受けてきた。職員会議でみんなで共有してきた。さらに原因を深め的確な対策を実施する。「子どもにとって保育所こそ最も安全なところ」を目指して努力していく。

8.子どもの安全と健康を、食育や楽しい遊びや教育を通して、安定したリズムある保育所生活の中で、確保するべき保育所が、子どもの命に関わる事故を起こしたり、子どもの心に大きな傷を残す事態を招くことがあってはならないとの決意を経営者・職員の全員で共有する。

9.共有できるよう、標語やイラストなどで、常に意識できるような措置を取る。

5.「わかば会」としての懲戒処分と自主返納

(1)当日の引率責任者であったクラス担任保育士について、就業規則第51条(3)に基づく「次期昇給停止」処分とする。
理由は、この場所ではコメ袋による尻滑りしかこれまでも実施してこなかったにも関わらず、荷物運搬用に1台持参した“プラスチック製そり”を使用する判断を行い、園児を命の危険にあわせる事態を招き、第52条(6)「過失により保育園に損害を与えたとき」に該当するため。

(2)園長は理事であり使用者に該当するが、施設長として保育士の過失を防ぐことができなかった責任をとって、給与1か月分の10分の1を自主返納する申し出があった。
   理由は、保育士らが石狩川堤防へ向かう際、当日の気温などからコメ袋の滑りが悪ければ、帰園するなどの注意を与えることを怠たり、部下の懲戒に該当する行為に対し、監督責任があるため。
以上